別に何かあったわけじゃない。
ただ、ちょっと変だった。
わかりやすく言うと、スナフキンっぽさがちょっと薄れてた、先々週から。
全然わかりやすくないけど。
ここまでずっと、強かった。
中三になってから、学判のトップを一度も譲らない。
実力テスト対策を誰よりも進めまくる。
決して、無理じゃなく。
あなたはいつも自然体だった。
追い込まれるでも焦るでもなく、悠々と、ひょうひょうと。
頑張っているのが、あなたの「普通」だった。
僕を含めた多くの人々が抱く「漠然とした不安」みたいなものから、君はずっと、自由だったんだろう。
「もし~だったら……」みたいに考える必要はなかったんだろう。
重圧や危機感なんていう感情たちは、あなたの速度には追いつけなかったんだろう。
走り続けて、伸び続けて、あなたはやってきたから。
だからこそ、僕の勝手なイメージの中で、あなたの姿は旅人だった。
出会ったことのない感情に出会うときっていうのは、戸惑うよ。
それを、あまり大きな問題だと思わなくていい。
これからもそういうことがたくさんあるよ、きっとね。
あなたより十年以上長く生きている青年として、ちょっと言うと、たとえばね、あなたはいつか、今のあなたでは想像もつかない、身を焦がすような灼熱の恋(また表現が古いなー俺も)を経験したりするでしょう。あるいは、腹の底から煮えたぎる、地獄の業火のような憎しみを経験したりもするかもしれない(そんなものはないほうがいいけどね)。
そういうのもひとつ、あなたがちゃんと生きていることの一部じゃないか。
不安とか恐怖とかを持ってる「私」も、可愛いじゃないか。
そんなふうに思ってあげなさい、自分のことを。
漠然とした不安というのは案外、馬鹿にできないもので、ときにはそれが、ひどく人を縛るものだ。
何かの呪いみたいに。
でもいいかい、問題は、あなたがマルヤマユリだってことだ。
そこが問題なんだ。
よく聞きなさい、不安や、恐怖や、そんなものに、あなたの自由な瞳を奪うほどの力はない。
あなたが気に入っているかどうかは別として、旅人、というのは本当にいい比喩だと思ってる、個人的には。あなたを言い表すのに。
旅人は何かにとらえられたりしないだろう?
誰も旅人を引き止めることはできないんだ。
何も旅人を縛りつけることはできないんだ。
いつだって、次の街、次の街を目指すのが旅人だから。
荷物はひとつかふたつ、増えたかもしれない。
けれど、それがユリを変えてしまうわけじゃない。
今までのように、自由であればいい。
次の街を目指せる、旅人であればいい。
僕の白昼夢の中でそうだったように、涼しい目をして。
風の吹く丘に立って。 |