先日の土曜、豊川本校で実力テスト直前の勉強会を開いた。
雨の降る寒い日で、僕は教室の一番後ろで、真剣に机に向かっているみんなを見ながら、不意に、妙なところに意識が飛んだ。
別にそのときが初めてだったわけじゃなく、僕はときどき、生徒が大人になったときの姿を想像する。
「将来こういうふうになりたい」って生徒から聞いて、それをイメージすることもあるし、あるいは何の脈絡もなく、勝手に想像(妄想、というのかな?)することもある。
それが、びっくりするくらいリアルに次から次へ浮かんできて、仕事の手が止まった。
あなたは、ドラマー。ステージのあなたは、髪を派手な色に染めて赤いバンダナを巻いて、いつもどおりの余裕の表情で、体を揺らしながら、激しくリズムを刻んでいた。「ドラマーなんかならんし」ってあなたは得意のビターな笑みを見せるだろうけど、いいんだよ、僕の勝手な想像なんだから。
あなたは、何かの研究者。よくわからないが、とにかく理系の研究者。白衣に身をつつんで、大きな目で顕微鏡を覗いてる。何か発見したのか、突然顔を上げて、目をぱーっと広げて、ふわーっと笑う。正直、白衣があんまり似合ってないような気もするが、それはそれで、キラキラしてて。
あなたは、陶芸家。無茶苦茶だけど。いつも物静かで多くを語らないあなただが、弟子に対してはうって変わって厳しくて、「馬鹿野郎、基本がなってねえんだよ」と熱い指導をしていた。ほんとに無茶苦茶だなこの想像。でも、カッコよかった。何か、魂を感じたね。
あなたは、警察官。僕の警官に対する印象は映画の影響を受けすぎているため、このイメージはちょっと過激で、あなたはアンジェリーナ・ジョリーみたいに跳んだりはねたりしながら、悪党を片っ端から銃で撃っていた。超クール。実際の警官はたぶん、そんなことしないんだろうけど。
あなたは、寿司職人。「らっしゃい!」。似合う。似合いすぎる。似合いすぎて心の中で三十秒くらい爆笑した。あくまでも心の中で。「カツオは?」「今朝、いいのを仕入れてきましたよー」。似合いすぎる。何度も店に顔を出したくなる笑顔。そして僕はカツオが食べたくなった。
あなたは、旅人。何だよ旅人って、職業なのかそれ?でもとにかくあなたは、スナフキンみたいな渋い色の帽子をかぶって、マントみたいなよくわからない布を羽織って、街を見下ろせる丘の上に立ち、風を受けて、いつものように、自由で涼しい目をしていた。
何やってんだ俺。一人だけ遊んでるじゃん。
みんな真剣に勉強してるのに。
別に「なってほしい職業」なんてひとつもない。
「こうなってほしい未来」なんてひとつもない。
ただ……十五分くらいで現実に戻って、十四歳や十五歳の背中を見ながら、ああ、遠い――もしかしたらそれほど遠くない――未来、この子たちがみんな幸せだといいな、と思った。
それはとても甘く、幼く、無責任な願いであるけれども……。
思えば、あなたたちの未来のほとんどは、僕の手の届かないところにある。
せめて、僕が触れられる未来だけは。 |