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「素晴らしい冒険の終わりであり、私が五歳のときから見た夢の終わりでもあります」。
そんなふうに言って、五月十四日、女子テニス世界ランキング一位のジュスティーヌ・エナンが引退を表明した。
「世界のトップで去るのがいい」
「ずっと情熱を支えにしてきたが、昨年の最終戦以来、感じなくなった」
「自分の人生は全てテニスと共にあった。もうこれ以上望むことはない」
涙をこらえられないコーチの横でそんなふうに話すエナンの表情には、穏やかで、どこか突き抜けたような笑顔があった。
ニュースの画面を見つめながら、彼女のバックハンド・ストロークを思い出した。
全仏オープンを三年連続で制した、黄金のバックハンドだ。
トップ・プロの世界で、一時期を境に、安定感を重視する両手打ちのバックハンドが主流となる中、エナンのそれは完全に異質な輝きを放っていた。小柄な体型から、まるで飛び上がるようにして片手で放つ、リスキーで美しい彼女のバックハンドが、僕は好きだった。
そうして突然、彼女が僕とちょうど同じ年齢であることに思い当たった。
僕はコロナ・ビールの瓶を振りながら、十六歳でプロに転向し、二十一歳で世界の頂点に立ち、四大大会で七度も優勝し、二十五歳で引退する、そんな生き方がどんな気持ちのするものなのか、想像してみようとした。
わかるはずがなかった。
ジュスティーヌ・エナン。
僕は信じます。あなたの笑顔を。「引退に何の後悔もない」という、その言葉を。
あなたから、本当に素晴らしいものをもらったから。
それが観客としての礼儀だと思う。
僕は僕なりに現役の歩みを進めます。長くなりそうだけどね。
「これ以上望むことはない」。
そんなふうに思えるまで、たぶん、まだまだかかるから。
あなたのように、美しく去ってゆけるのだろうか。
それとも、つかみきれないまま、死ぬまで手探りなのだろうか。
何であれ、散ってゆく間際には、あなたのように笑いたい。
後悔はないと。
さよなら、エナン。
あなたほど美しいバックハンドを打つ人に、もう二度と会わないかもしれない。 |