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イマジン 2008年02月04日 
箸本‘husky’竜也 

「想像できたなら、それは実現したのと同じことなんだ」。
 世紀の魔術師デヴィッド・カッパーフィールドは、そんなふうに言ったそうだ。

 ときどき、本当に決定的なことというのは、目指すことでも実現することでもなく、「イメージを描くこと」なのではないか、という気がする。

 テニスの試合中に不調に陥ると、よくわかる。
 足が重かったり肩が開いてたり弱気になってたり、でも、一番やばいと思うのは、ネットに出てくる相手の脇をすり抜けるような必殺のパッシングのイメージが、浮かばないこと。
 その「画」が見えない限り、ボールはネットを叩き続ける。
 好調のときは、逆だ。イメージが明確にあり、身体がそれについていく。

 イメージだよ。
 これから一ヶ月、イメージを。
 眠りに落ちる前、五分でいい。

 とるべき問題を確実にとりきるイメージ。
 思い切って飛ばせる、思い切って捨てられるイメージ。
 本番、普段どおりに、落ち着いて、解くことだけに集中できるイメージ。
 仮に、一問わからなくても、軽やかに次に進めるイメージ。
 仮に、一教科の手応えが悪くても、次に引きずらないイメージ。
 パニックに陥りそうなとき、一瞬の深呼吸のイメージ。「あー俺冷静」って。
 120パーセントでも80パーセントでもない、100パーセントのイメージ。
 僕たちの、勝利のための、イメージ。

 僕にはもう見えている。
 握手。笑顔。抱き合って、拳を突き上げて、空を仰いで、突き抜けるように、春。
 最高の、イメージ。
 そこにいるのはあなたであり、あなたであり、あなた。

「想像できたなら、それは実現したのと同じことなんだ」。

 僕たちの想像の世界。
 そこは、荒野のように広大な場所だ。
 誰も俺たちを邪魔できないぜ。
 続けて続けて続けて続けるんだ、俺たちのためのイメージを。



テイク・ケア 2008年02月04日 
箸本‘husky’竜也 

 僕の部屋の近所には、三件のコンビニがある。
 箸本は「生活感がない」とよく言われるが、しばしばコンビニに行きます。何を買うかって?確実なのは煙草と烏龍茶ですね。僕は一日に一定量以上の烏龍茶を飲まないと発作が起きる。
 便宜的に、三件のコンビニを近い順からA、B、Cとしよう。

 Aのメリットは、深夜でも現金が下ろせる点だ。僕は現金を持ち歩いていないと不安なので、これは非常に助かる。
 ちょっと前、二川校の帰りに小澤先生と某ファミリー・レストランに行き、ファミレスなんだからクレジット・カードは使えるでしょと油断していて、「いいよ、誘ったんだから俺が出すって」とか偉そうなこと言ったものの、僕の切り札JCB(Jesus, Come on, Baby!の略、ではなく、普通のJCBカード)が使えず、小澤先生に払ってもらったときの、あの衝撃。忘れられない(小澤君ほんとごめん)。ああいう悲劇的な事態を回避するためにも、僕はある程度の現金を持ち歩いていたい。

 Bにはできる限り行きたくない。
 深夜、結構な確率で働いている店員がいるのだが、この男がムカつく。
「コンビニの店員がムカつくって言ったってタカが知れてるでしょ」と思われるかもしれないが、いやーほんとにムカつくぞ。あたかも「人をムカつかせて生きないと天国に行けない」という宗教の一派を信奉しているかのごとく、この男はことごとく僕をムカつかせる。じゃあ行かなけりゃいいじゃないかという話だが、僕のキャメル(ラクダの煙草)が置いてあるコンビニが近くにはないのだよ、このB以外。

 そして、C。距離でいうと一番遠いんだけど、僕は基本的にここを選んで行くようにしている。
 深夜、高確率でホーク(仮)という店員が出現する。この仮名に特に意味はない。強いて言うなら顔が鷹っぽいからである。この人が、いい。
 年齢は僕の父親よりちょっと下かな、四十代後半?なかなかのハンサムだ。で、とにかく客によく話しかける。だいたい僕は見知らぬ人と話すのがプレッシャーで、よく喋るタクシーの運転手につかまると「勘弁してくれよ」と思ってしまうのだが、ホーク(仮)さんは非常に好感が持てる。書き始めると色々あるのだが、印象的な話を、ひとつ。
 確か昨年十月の終わり頃、例によって発作を防ぐため、深夜、烏龍茶を買いに行ったときのこと。僕は釣り銭を受け取ってビニール袋をつかみ、ひとつ、咳ばらいをした。そのとき、ホーク(仮)さんが言ったのだった。
「お大事に」。
 僕は「どうも」としか返せなかったが、なかなか言えないよな、と感心した。だいたい、ひとつ咳をしただけじゃないか。風邪かどうかもわからない。マスクを買ったわけでもない。そして結論から言えば、僕は風邪なんかひいていなかった。でも、そんなことはどうでもいいのである。彼だって確信があって言ったわけじゃないだろう、不確かな中で、それでも、ということなんだろう。そこがいい。
 以来、煙草を除いて、僕はCのコンビニに通っている。遠回りになることもあるが、何だかそれが真っ当なやり方のような気がするのだ。僕はかなり世の中をなめて生きているという自覚があるが、自分の思う限りで、真っ当でありたい。

 先日、深夜に烏龍茶(まったくどれだけ烏龍茶を飲むんだお前は)を買いに行くと、ホーク(仮)さんがマスクをしていた。これはもう確定である。任せろ、と僕は思った。釣り銭を財布に放り込み、袋をつかんで、今度は僕が言った。
「お大事に」。
 ホーク(仮)さんは鷹のように微笑んだ。いや、鷹が微笑んだのは見たことないけど、きっと、あんな感じだ。

 日々接する多くの人々。深く関わり合うこともなく、僕たちはただただ、通り過ぎてゆくだけだ。煙草の火を貸すだけのような間柄。それでいい。でも、そんな中で、何かひとつでも、優しいものを残しながら、温かいものを落としながら。そんな場面が、あるといい。

 ホーク(仮)さん、いつもありがとう。あなたのコンビニはなかなかいいですよ。キャメルを置いていないことを除けばね。



ワガママな息子 2008年02月04日 
箸本‘husky’竜也 

 実家に電話して、ひとつ、報告をした。

 母親は喜んだり安心したり、でも結局、彼女が一番言いたかったのは、最後の「風邪に気をつけてね」ということなんだろう。
 父親は「竜也から言ってくるまで何も聞くんじゃねえ」と母親に釘を刺していたそうだ。彼は電話に出もしなかった。

「正月、帰るつもりないや」。
 十二月の半ばにちょっと決心してそう電話したとき、母親は不満そうな素振りの欠片も見せなかった。

 一年のうちでトータル一週間しか会いに来ない息子。
 スピード違反で百日間も免許を取り上げられる息子。
 小さなことも大事なことも、誰にもひとつも相談しないで決めてしまう息子。
 故郷を捨ててしまった息子。
 その全てを当たり前のように受け入れてくれる、父親と、母親と、弟。
 あなたたちがどうしてそんなふうに生きられるのか、僕はときどき不思議に思う。

 そうすべきだと信じて決めたことだから、謝りません。
 ただ、これほどまでにワガママに育ててもらえて、僕は、心の底から幸せです。



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