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数日前、捨て猫を見た。
夜明け近く、小坂井方面の川沿いの狭い道を走っているとき、道路の隅に灰色の小さな塊が見えて、車から降りてみると、傍にダンボール箱が転がっていた。彼だか彼女だか、ヘッドライトに照らされたそいつは、痩せた小さな顔についた潤んだ目で僕を見て、小さく鳴いた。
無理だよな、と思ったが、革靴に擦り寄ってミーミー鳴く子猫をどうしても無視できなくて、ダンボールごとトランクに放り込み、帰り道のセブン・イレブンで生まれて初めてキャット・フードを買った。アパートの部屋に連れ込むわけにもいかず、近くの神社に連れて行き、そこで餌を食べさせた。紙皿に餌と水を入れて立ち去ろうとすると、猫は顔を突っ込んでいた皿から離れて僕についてこようとした。
胸が痛んだ。ひたすらどうでもいい些細なことでいちいち傷ついていた十代の頃の気持ちを、久しぶりにひどくリアルに思い出した。
でも、結局のところ、僕は十五の少年ではなく、二十四の塾講師だった。僕はそいつを抱きかかえて餌の皿の傍に戻し、「悪いな」とだけ言ってリリーに乗りこみ、部屋に戻って眠った。
バック・ミラーを一度も見なかった。
翌日、仕事が終わってから夜明けの神社に行ってみた。馬鹿みたいにキャット・フードを持って。
子猫はいなくなっていた。いるわけがない。身勝手なだけの男を二十四時間も待ち続ける義務など誰にもない。
くだらないとは思いつつ、二時間くらい、近所を探した。どこにもいなかった。死体も見当たらなかった。次の日も。次の日も。次の日も。その、次の日も。
たぶん、一年半ぶりの長い散歩を繰り返しながら、ただただ、自分のことを最低だと思った。別に理由は要らなかった。
きっと、心ある誰かに拾ってもらったんだろう。君は今頃、誰かの膝の上で眠ったり、誰かの顔を引っ掻いたりしているんだろう。
そういうことにしたほうがいい。
わかってた。優しさなんかじゃない。自己満足だ。最悪の罪悪感からとりあえず逃れるだけの偽善だ。まやかしだ。逃げたんだ。わかってた。偽物の善は、本物の悪よりもタチが悪いのだ。わかってた。そんなことはわかってた。でも、あの子はお腹を空かせて泣いていて、出会ってしまったのは僕だった。何となく、僕はそのことを謝りたい。
ごめんよ。
何だかんだで、全ては僕の弱さで、それは、変えられなかった。
だから何も願うまい。僕にそんな資格はない。
昨日、もう一度だけ、最後と決めて、神社に行った。
曖昧に曇っているせいで夜が明けているのかどうかもわからない、やたらぼんやりとした空気を縫って、近くの河原まで歩いた。何本煙草に火をつけたかわからないが、全く味がしなかった。遠く、車がまばらに行き来する橋の向こうにオレンジの街頭が並び、それが川面に映って、燃えているみたいだと僕は思った。
じゃあな。もう会うこともない。
君のことは忘れるよ。
君に名前をつけたりしなくて、よかった。 |