| 豊川校で教えはじめてから、4年が経った。そして4年前、ある一人の少年と出会った。
少年はとんでもなく僕を支配した。授業中に集中しない、学力判定テストでは取れない。
でも、授業はほとんど楽しそうに受けている。ひとことで言うと可愛げはあるが、手がかかる子だった。
中1のときに母親から電話を受けた。「ウチの子、成績が下がっているのが心配なのですが」
ぼくはそのとき、彼に対して考えていることや今後どうしていきたいかを話した。ぼくの推察が正しければ、そのときのぼくの話では、母親は納得してくれなかったと思う。だって、自分も彼をもてあまし気味だったから。彼が何を考えて何に価値を持ち、何をしたいのかが分かっていなかったから。
そして、約4年前の6月4日。一人の少女がカイタクに現れた。少年と同じクラスで授業を受けることになった。少年たちは好奇心に満ちた目で少女を見ていた。 そして、少女はまだあどけなさを残した笑顔を浮かべながら楽しそうに授業を受けていた。少女は不器用だった。理解するのに時間がかかる子だった。でも、勉 強熱心。テスト前はいつも徹夜になる。それを何度やめるように言ったことか。いい成績を取りたいがあまりに頑張りすぎてしまう。
このままいったら・・・。けれど、彼女の成績は入塾してからどんどん上がっていった。
少年も少女も中2になった。少年は2学期変貌した。遅刻が多くなり、眉をそり、髪型もおしゃれになった。ぼくが注意する回数も増えた。でも、ぼくは待った。心の中で思っていた。『この子を3学期に変える』と。今はまだ何を言っても変わらないだろう。でも、もう少し関係が築き上げられれば。そのときに。ぼくは強く心に決めていた。
少女は相変わらず不器用だった。少女にも転機がやってきた。成績が思うように伸びなくなり、悩み始めるようになった。僕は言った。「今のままの勉強方法では 伸びないよ。あせりからくる徹夜の勉強では覚えたとしてもすぐに忘れちゃう。頑張りは認める。でも新しい方法で頑張る勇気をもたなきゃ」彼女は笑っていたが、徹夜がなくなることはなかった。ぼくは彼女に言った。「入試の前日にしっかり眠ること。それが目標だね」
2年の3学期。少年は変化を遂げた。自分は彼に何を伝えたのだろう。何かを伝えたはずなのだが、残念ながら今では思い出せない。ただ、ひとつだけ言えるのは彼を信じて言葉を発したこと。まず、授業を受ける態度が変わった。学力判定テストでも頑張った。何点とりたいのかを意思表示するようになった。ぼくは、嬉しさを隠しきれなかった。『その調子だ、頑張れ』心の中で何度も微笑んだ。ぼくは、まだ彼を引っ張っていきたかった。上のほうへ。さらに上のステージへ。
二人とも3年生になった。少年はさらに加速していく。志望校をはっきり国府高校にさだめ、自分達の言うことをどんどん吸収していく。1学期、内申点も上がり、上々の滑り出しを見せた。「先生、俺、まだ内申上げるで」
彼の言葉には、自分の手でつかみとった自信が込められていた。
少女もあどけなさはどこかに残しながらも頑張り続けた。部活動で長距離の選手として活躍しながらのカイタク。
時折眠そうな目をしていた。ぼくはすかさず様々な言葉を発信する。受け止めているのかいないのか分かりにくい表情。さらにぼくは眠気を覚まさせる。そんなことが続いた。
志望校は国府高校。内申点は十分にある。しかし、実力が・・・。それが彼女の悩みでもあった。
夏期講座に入った。少年は授業前に実施される完全定着テストの1回目で「らしくない点数」をとった。
中浜校で授業に入っていたぼくは電話をし、彼に喝を入れた。「すみません。次からは取ります」殊勝にも彼はそんなことを言った。そして、それは実行された。少女は部活動の都合で、ほとんどの講座を豊橋本校で受講した。見知らぬ子たちの中、それでも明るく授業を受けていた。
3学期、最後のテスト。少年は3年生のテストの中では最低の結果だった。内申点は1つダウン。国府高校を受けるにはそんなに安全ではない内申点だ。少女は学年末テストでは最高順位だった。しかし、その顔には笑顔がなかった。実力テストの国語において大失敗。彼女はそのことを悔やんでぼくの前で泣いた。ぼくは彼女の前で努めて明るく振舞った。志望校の選択の際にも涙をこぼした。そのときに、彼女の夢を教えてもらった。母親にも来てもらって3人で話し合った。結局、国府高校で決まった。
2月は補習、補習の連続だった。少年の英語、社会。少女の英語、数学が心配だった。でも、二人とも頑張ってついてきた。力も徐々についてきた。最後の通常授業。ぼくと建部でギターを弾いた。彼、彼女を含めて頑張りつづけた豊川校の生徒たち。二人とも泣きそうだった。何に対して涙があふれそうになったのだろう。でも、必死でこらえる自分がいた。彼は片手で顔を隠しながら泣いていた。彼女は涙をこぼしながらも懸命に目を見開いてその光景を記憶に残そうとしているかのようだった。ぼくも心でシャッターを切っていた。今でも忘れられない。
入試の朝。「昨日、ちゃんと寝ましたよ」国府高校で会った彼女は楽しそうにぼくに告げた。言葉少なく、それでも少し笑いながらぼくの前を通っていった彼。ぼくは二人に月並みな声をかけ、2004年度の入試が終わった。
でも、2人の結果が気になってしょうがない。神様は信じないぼくだけど、いるのなら2人を合格をさせて欲しいと願った。内申点と当日の得点の合計が同じ点数で2人とも並んでいた。受かるも一緒、落ちるも一緒。2004年度の入試も最後までぼくを悩ませた。
1年前位くらいだったろうか。彼女に電話をした。彼女の卒業作文を広告に掲載したくてその許可をとりに彼女と母親と話した。長い電話になった。でも、楽しかった。「あたし、結構太りましたよ。顔とかもうパンパンですよ」屈託なくずっと彼女は笑っていた。ぼくも笑いどおしだった。大したことなど何一つ話してないのに盛り上がった。太った彼女など想像できなかった。ぼくの中ではいまだ彼女はガリガリ君のままだ。
1年くらい前のはず。彼が豊川校に友達と遊びにきた。コーヒーの差し入れなんかしてくれて、ずいぶん高校生らしくなっていた。長い話になった。でも、楽しかった。女の子の話で盛り上がった。
「あいつと話すことあるの」ぼくは彼に彼女のことをたずねた。「いや、クラスも違うし」彼は言葉少なく返した。
彼は国府高校の制服を脱いで手に抱えていた。
今年の豊川校の子たちは英語が苦手な子が多くてちょっと大変かな。でも、まとめテスト頑張ってたし、これからかな。夏期講座、頑張らないといけないな。
ありがとう、コーヒーを差し入れしてくれて。久しぶりに飲んだコーヒー、おいしかったよ。
ありがとう、ガリガリ君、最高の卒業作文を。今年もいっぱいの花を咲かせられるよう頑張るよ。
また、どこかであえればいいね。
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