3年の学年末テストが終わり、数日経った寒い日。
授業前、何の気なしに教室に入って行くとマキコがいつものマキコではなかった。
「 どうした、マキコ。 」
聞いても、うつむいて答えない。
「 学年末の結果は出たのか。 」
ちょこんとうなずく。
「 悪かったのか。 」
私がそう言ったとたん、マキコは壁に向かって泣き崩れてしまった。
どうしたらよいかも分からず、とりあえずマキコの手を引っ張り、事務所に連れて行く。聞いてみると、普段1ケタから10番台をキープしていたマキコが、学年末テストで30番台をとってしまったということだった。
マキコはその前の対策授業でもしっかりやっていた。いや、悲愴感が漂うぐらいに自分を追いこんでやっていた。それを知っている私は、半端な言葉ではいけないと思いながらも、「 それは悔しいな、マキコ。 」とただ、黙って肩をたたいてやることぐらいしかできなかった。
「 顔を洗って来い。涙でぐしょぐしょだぞ。 」と言い、教室に入れた。
いつも一生懸命に頑張り続けているマキコを何とか励ましたい。でも、どうやって。何を言えばいい?あとで呼ぼうか?みんなの前でマキコに伝えようか?あと少しで授業だ。
マキコを勇気づけたい。ただそれだけだ。何の話でもいい。一生懸命に今、話そう。
「 挫折 」
といきなり黒板に書きなぐった。
「 経験したことあるか? 」
きょとんとした表情の生徒たち。
「 オレが挫折したのは大学受験のときだった。オレは、マークシートのテストが得意だった。与えられた選択肢から解答を導き出すことが好きだった。出来のいいクラスではなかったが、高校3年生で受けた模試では常にトップだったと思う。模試が終わると、オレに答えを聞きに来る奴が結構いてさ。これはこうだよ、とか教えたりして。
さて、本番。オレはどの教科も失敗し、自分でも信じられない屈辱を味わった。
予想点より100点も下回った。悔しかった。みんなオレの得点を聞いて一様にびっくりした顔をする。悔しかった。自分に腹が立った。学校の先生にも驚かれた。悔しかった。
親は優しかった。でも、親に八つ当たりをした。持っていきようのない怒りを抑えることがどうしてもできなかった。2、3日そんな日が続いた。 」
私は夢中で話していた。マキコの顔を見つめながら。
マキコの目には、もう涙はなかった。
ただ真剣な表情で私を見つめていた。
「 後になって気づいたんだ。過去は取り戻せない。あるのは未来だけなんだ。
そしてその未来を決めるために今がある。
だから、今を懸命に生きよう。頑張ろうぜ、マキコ! 」
マキコは力強くうなずいた。
自信を失いかけていたマキコが志望校合格に向かって、また頑張りだした。
そして、
「 先生、時習館に受かったよ! 」満面の笑顔でマキコが塾にやって来た。
真っ先に思い出したのは、あの寒い日のことである。 |